第2信 −着替えの効用−

第2信 −着替えの効用−

第2信 [2024年2月28日配信]

2024/2/28

目次
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    〈ちょうどいい 着る暮らし〉を創造する
    坂口彩香の『ちょお〜ど・いい◎ 通信』
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    こんにちは!たてやの坂口です。
    日の出と日の入りが少しずつひらいてきて、明るい時間が増してきた頃ですね。
    いかがお過ごしでしょうか?
    ◇ ◇ ◇
    元日に能登半島地震が起きてから、私の生活には「ラジオで震災の情報を聞く」という習慣が増えました。
    ※ちなみに我が家はテレビを置いていません
    それまではネットやたまに見る新聞等で軽くニュースに触れるくらいで、ここ7年ほどは楽しみとしてのラジオもやめており、今年は久しぶりにほぼ毎日、震災関連のニュースを聞くためにラジオをつけています。
    少しタイムラグがある話ですが、1月29日ごろのニュースで、特に被害の大きかった輪島市門前地区に移動式コインランドリーが1台設置され、洗濯の支援が始まったという報道を聞きました。
    この日以降順々に、他の地域にも派遣されているようです。
    発災から数日が経って避難生活が長引くと必ず、入浴や洗濯など衛生の確保が求められますが、今回の地震は特に厳寒期でした。
    防寒のために着込まなければいけないということも含めて、着替えたかったり洗いたかったり、さぞかし着るものに関しても切実に困っている方がたくさんおいでるのだろう…と感じ入ってしまい、支援が入ったことに少なからずホッとしました。
    そんな事があって、今回は被災に限らず誰でも遭遇するかもしれない(したかもしれない)「着替えられない」という非常時の切り抜け方を、避難生活こそ経験はありませんが私の経験を元にまとめてみました。
    私たちが、普段は何気なくしている「服を着替える」ことの意味や効用についても、考えてみたいと思います。

    ー 着替えの効用 ー

    サクッと手洗い

    まず、着替えられない話の前に「いつも通り洗濯機で洗濯ができない」という状況から対処していきましょう。
    発災して断水や停電している状況なら冒頭の移動式ランドリーなどはとても頼もしく、こういった支援を待つこともひとつです。
    ですが若干の生活用水があって何とか手元で洗濯できるかもしれないというときに、なるべく少ない水でサクッと洗える方法を知っておくと役に立つかもしれません。
    一人暮らしの時に「洗濯機を使わずに暮らせないだろうか?」と色々試みた際に見出して便利だった、ビニール袋を使った洗濯方法をご紹介します。
    ※ここからご紹介する方法は坂口個人の体験を元に編集しており、公認性や効果の実証はありません。皆さんの暮らし方のご参考になれば幸いですが、状況によっては解説どおりの結果にならない場合もありますのでどうぞご了承ください。

    【少ない水でも洗える】ビニール袋を使った洗濯法



    ・お風呂場や台所などの屋内でも、屋外でもできます。
    ・断水時でも井戸水や貯水など多少使える水がある場合に有効です。
    ・本来はたっぷりの水で洗う方が衣類を傷めにくくきれいに洗えるので、「節水」は非常用としてお考えください。
    手順
    ① 洗いたい衣類をまとめる。(想定としては綿などの肌着やタオル)


    手で取れるホコリや砂などは払っておきましょう。
    ② 洗うものが入れられる、大きめのビニール袋を用意する。
    30〜45Lなどで、1枚でもできますが2枚重ねにしてもいいです。
    量が少ない場合はレジ袋や食品用のジッパーバッグも同じように使えます。
    ③ 大体の目分量で、洗うものと同じくらいの量の水を袋に入れる。
    屋外で袋の下がコンクリートや砂利の場合、破れやすいのでタライに入れたりブルーシートなど何か敷くといいです。
    ④ 洗剤を使う場合、ここで入れて溶かす。
    水の量に対して標準量を入れましょう。
    洗剤がない場合は水だけで洗うのもアリですし、多少服に残ってもまず問題がない重曹もおすすめです。(よく溶かしましょう)
    ⑤ 洗うものを入れて、空気をなるべく抜いて口を縛る。


    ⑥ 袋の上から軽くゆすり、水を行き渡らせる。
    ジッパーバッグで野菜の浅漬けを作ったりできますが、それとよく似ています。少ない水でも衣類が中で泳いでくれます。
    ⑦ 1〜3分ほど、疲れない程度にゆする。


    最初に浸水させておけば漬けおきでもいいです。
    ⑧ 口を開けて水を流し、脱水する。

    水を流すたびにしっかり脱水しましょう。
    袋の上から押したり、足で踏んだりします。手近に木の板などの平らで固いものがあれば、それを載せて上から押すとよく脱水できます。


    最後は手でひとつずつ絞ります。
    ⑨ 水を入れて口を縛り、ゆすってすすぐ。
    ⑩ ⑧と同様に脱水する。
    洗い上がりをみて、汚れがまだ残っているものだけもう一度すすぐなど調整しましょう。
    ⑪ ひとつずつよく絞ってから干す。


    早く乾かしたい時は、途中で服の上下や表裏をひっくり返したり、布が込み合っているところを広げたりと乾き残るところに風が当たる様にしてみましょう。
    〈ワンポイントアドバイス〉
    水を入れた時に小さな穴があいていた、あいてしまった時はガムテープで急場しのぎはできます。
    袋の容量が小さくなってしまいますが、穴のところを縛ってしまうのも手です。


    ⭐︎ まとめ
    この洗い方の最大の特長(だと思う所)は、あまり手を濡らさずに洗えることです。
    洗濯自体を愉しむならまた別ですが、洗濯で手が濡れてふやけることに良いことはたぶんありません。
    真冬などは特にあまり冷たい水に手をさらすとこわばってしまい、しもやけやケガの元にもなるので、手を濡らさずに洗えるととても助かると思います。
    (ゴム手袋をしてタライなどで洗うのももちろんいいと思います)
    なお、この方法は停電時や旅行・キャンプの時などにも使えるのではないかと思うので、手で脱水する方法をご紹介しましたが、洗濯機の脱水機能が使えるのであればそれの方がはるかにしっかり脱水できます。
    そしてタライなどに水をためて洗うと、作業する場所によっては水を流す時に結構重たく重労働になる場合がありますが、ビニール袋だと比較的楽に水を流すことができるので体力を使わずに済み、疲れにくいのも利点です。
    以上、【少ない水でも洗える】ビニール袋を使った洗濯法でした。



    着替えの効用

    ずっと同じものを着ていると、たいてい不快になるのはなぜなのでしょうか。
    被災の様子をラジオで聞いていると、3〜4日は急を要する事への対応で忙しく、それ以降に入浴や着替え、洗濯がしたくなるようです。
    そうでしょう、、。上着などはともかく、肌着に関しては突然の大事がなければ2日目でも気持ち悪いものです。
    物理的(身体的)には、衣服に湿気や皮脂が溜まるのが不衛生につながるからと考えられますね。
    特に肌着類を毎日取り替えたいと思うのは、肌に接する面が多く、その分汗や皮脂を吸っているからでしょう。
    土地の気候風土によって服を洗う必要性も違ってくるのですが、私たちの暮らしているような湿度の高いところでは、肌に触れる衣類に皮脂が溜まっていたり湿っていると、雑菌の温床になりあまり健康的な状態とはいえません。
    軽微でも汗が臭って気になったり、かゆみがでたり困るものですよね。

    体の都合とは別に、気分・気持ち的な面ではどうでしょうか。
    私は、人は着替えることによって生活に節目・リズムをつけているのではないかと思います。
    朝起きて、日中のおつとめ(仕事、家事などしようとしている事)に合わせた服に着替え、必要に応じて途中にも着替え、夜お風呂から上がれば肌着も新しくし寝巻に着替え、眠りにつく…着替えのタイミングや頻度は人によるところもあるでしょうが、一日に何度も着替えます。
    着替えは、大体が生活シーンの切り換え時に行われますよね。
    逆にいうと、睡眠から仕事、掃除などの作業から厳粛な改まった席に出るなど、居る場所や自分の立場がガラッと変わる時に着替えが行なわれないと、出来なくはありませんが変な感じというか、気分が入れ替わらずどっち付かずといった感じが強くするように思います。
    一日に何度もあるシーンの切り換え時にこれからのシーンに見合った服に着替えることで、インターバルをとる=ひと息つくことができ、きちんと気分が変わって、メリハリ・リズムが生まれます。
    川の水の流れの様に、だあっと止めどなく昼夜を過ごすのではなくて、息継ぎをして、カチッ、とかクキッ、とか節目を作りリズムを刻んで行く方が、感覚的に楽な気がするのは私だけでしょうか?
    生活シーンの切り替え、と先に書きましたが、人は一人で何役もの社会的な役割や立場をもち(大人になると特に)、それをこまめに行き来しているという言い方も出来ます。
    着替えはその役割や立場をきっちりと区切り、気分つまり態度の入れ替えをするための行動とも言えると思います。

    着替えられない時は

    避難生活やその他の事情でやむを得ず着替えられず、その事が気になる時のしのぎ方というと、ひとつ思いつく事があります。
    それは、一度服を冷ますことです。
    着替えが叶わない時、全部を一気にではなく少しだけあるいは少しずつ、服を脱いで冷ましてみてください。
    入浴の際に、さっきまで着ていたものをお風呂から上がってまた着るということはあると思いますが、それに近い感じです。
    一度体から離して、蒸れた服に風を通してぬくもりと、できれば湿気もなるべく飛ばして冷まし、改めて着ます。(出来るものは裏返しに着るのもアリですね)
    湿気をしっかりと取って乾いた状態になるとなお良いのですが、手間や時間的に無理なら触って「常温になったかな」くらいまで冷ますだけでも十分です。
    ただし汗などで濡れている場合は、冷たくなった水気で体も冷えてしまうのでいけません。
    しっかりと乾かしてから着てください。
    服を冷ますことで、汚れは取れていなくても肌触りが洗ったものに似るので、着直した時に「着替えた感じ」がより感じられると思います。
    怖い言い方かもしれませんが、こうやって皮膚感覚を騙してください。あくまでも意図的に。
    新しい(洗った)ものに換えられればそれに越したことはありませんが、「着替える」という動作自体にも意味があると言えばあります。
    生活に節目・リズムを作り、気分をきちんと切り替える手立てです。
    それが出来ない時は、こんなしのぎ方もやってみてください。
    [いくつかの方法]
    • しばらく風通しの良いところに吊るしておく
    • 短時間なら日差しに当ててもいいでしょう
    • 扇風機などが使えれば、服の下の方に送風する
    • ドライヤーもいいですが、温風を当てた後仕上げは冷風で
    • 何もない時は、両手で持ってパタパタと振る(けっこう効きます)
    [ポイント]
    内側に着ているものを脱いで冷ます方が効果は大きいですが、極寒だったり、肌着を干して置けない状況や体調不良の時などは上着一枚、靴下だけなどでもいいと思います。
    汗などで濡れている場合は、しっかりと乾かしてから着てください。

    衣料のローリングストック

    最後に、備えについて少し。
    震災をきっかけに皆さんもご自宅などの非常時への備えを見直されている時期かもしれませんね。
    飲料や缶詰など普段食べるものを多めに備蓄しておき、消費した分を常に補充する「ローリングストック」という備え方がありますが、これは衣料にもいいと思います。
    いつも使っている肌着類の新品を1組、ストックしておく。(非常持出袋に入れるなども◯)
    交換の時期にストックを普段用に下ろして、新品を備蓄する。
    紙製などで使い捨て下着というものもありますが、使い慣れているものがあるとよりよいのではと思います。
    ご参考になれば幸いです。




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    〈つつみ〉の 包んだ話  No.2 足袋の生い立ち

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    ・たかが足袋、されど足袋。手縫い足袋〈つつみ〉に包んだ技術と物語のコーナー。
    前回のNO.1では足袋の履き方をご紹介し、足袋がしっかり和服であるという事を発見しました(まず書き手の私が)。
    今回は、足袋の歴史=生い立ちを見ていきたいと思います。
    現在私たちは、礼装用の白足袋を中心にお祭りや外仕事用の地下足袋など、男女問わず子供用も含めて多様な足袋を履くことができます。
    目的としては、足の保温や保護、装いをととのえる(ファッションや美観)といったことになりますが、さていつ頃からこの様なものを履くようになったのでしょうか?

    (画像:〈つつみ〉香色)

    まずは袋を

    足袋のルーツには2つあり、微妙に用途や使う人を別にします。
    ひとつは貴族階級の人が履いていた絹製の「襪(しとうず)」で、いわゆる靴下の役割をしていたと思われます。
    奈良時代から使われていて、当時の中国から他の様々なモノや文化とともにやって来たのかも知れません。
    現役としては一部の舞踊・舞楽などの装束に残っています。
    もうひとつは、中世に出現した武士が狩猟や戦の時に保護のために履いた革製の「単皮(たんび)」で、靴下というよりはむしろ靴そのもの、今で言うところの登山靴のようなものだったと思われます。
    地下足袋のルーツというと、こちらになるのではないかと思います。
    いずれも、初めの頃はまるい袋状で、足首で紐を結んでいました。
    襪は徐々に階級を問わず履かれるようになり、素材も絹から木綿に、紐結びからコハゼ(爪型の留め具)留めにと変化していきます。
    色や柄ものも階級ごとの制約や流行りを受けながら様々に作られ、今私たちが基本としている履き方の「礼装には白足袋」は、江戸時代の武家の間で定まったと言われています。

    独自のデザイン

    さて、足袋を制作している私としては、やはり「つくり」が気になります。
    古い足袋の写真もなかなか少ないのですが、限られた文献から想像をめぐらしていきます。
    原始の足袋はまるい袋状、なんなら布も一枚もので巾着のようなものでした。
    そのうち足の形に沿うように2枚、3枚を縫い合わせて作られる様になります。
    まあ、ここまでは普通かなと思います。
    洋服文化の方でも毛糸で編んだ袋状の靴下が古くからあったでしょうし、これで保温や保護といった役割は十分に果たせます。
    そして、時代で言うと室町時代に、私からすると画期的にデザインが変わったというか、靴下とは違う足袋独自のデザインになったなと思った変化がありました。
    それが、指股がついた(親指と人差し指の間が分かれた)という事です。
    ただの袋ではなく指股をつけようとすると、複雑な形の型紙を作らなければならず、当然作るのに手間と技術が要るようになります。
    手間でも敢えてその形を採用したのは、履いた時に大きなメリットがあるからでしょう。

    足で掴む

    足袋の親指と人差し指が分かれた事によって、履くと足指の感覚が敏感になります。
    そうすると足、特に足の裏で地面を掴んで(つかんで)立つことできるので、歩く・走るなどの運動も確実になるという、安定性を生み出すことになります。
    指先が意識されて、自然と足元に注意するようになるということですね。
    草履や下駄の鼻緒もはさめるようになり、足袋の中で足がズレ動くということもかなり減ったのではないでしょうか。

    和服として完成

    この指股がついたという「つくり」によって、足の甲には指の間から脛(すね)にかけて、骨に添った一本の縫い目がおのずと現れました。
    足袋姿を正面からみるとそれは真っ直ぐな線として立ち上がり、実際には直線ではないものの、着物の、タテに真っ直ぐな縫い目やシルエットと調和して、和服独特の美しさを作り出しているように思います。
    とりあえず袋で足を保護した原始から一歩進んで、和服として完成したとでも言いたいような、機能と美観を備えたデザインになっているのです。


    * * *
    昔は階級による制約の多かった「服の色」も、今では制服などを除いては好きに決められるようになりました。
    手縫い足袋〈つつみ〉も白以外にカラーバリエーションが10色あり、アクセントからナチュラル・モノトーンまで男女や年齢を問わず自由に選んで頂けます。
    色足袋にしては派手すぎず、使いやすい無地なので今まで白足袋しか使ってこなかった方も、ぜひお好きな色を選んでみてください。
    🌸creema限定で3月中のみ、さくら色を出品しています!🌸
    詳しくはこちら→(creemaたてやページ)


    [参考文献]
    ・https://wargo.jp/blogs/kasuu-column/history_tabi
    The IChi Webサイト内「足袋の歴史」 2020年
    ・「すぐわかる 着物の美 髪飾りから履き物まで」
    道明三保子監修 平成17年 東京美術
    ・「日本人が大切にしてきた大人のしきたり」
    柴田謙介著 2007年 幻冬舎



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    お知らせ
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    ◇金沢市・新保屋での開店日のお知らせ
    3月は3日(日)と17日(日)に開店します。
    時間は10〜16時半です。ご来店お待ちしております。

    次回の通信は3月27日(水)配信の予定で、“和服ってちょうどいい–かたちの心地よさ–”(仮)をテーマに考えています。
    どうぞお楽しみに!

    ではまた、お目にかかります。
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    ふく拵え たてや
    主宰・和裁士/坂口 彩香
    石川県能美市寺井町
    メール:tateya.wfk@gmail.com
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