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〈ちょうどいい 着る暮らし〉を創造する
坂口彩香の『ちょお〜ど・いい◎ 通信』 第5信
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・2024年5月22日配信・
こんにちは!たてやの坂口です。
新緑の季節になりましたね。
私の住まいから望む白山が、雪がとけて来て白い出立ちから黒山になりつつあります。
「もうすぐ、夏だ…」というちょっと清々しくも、容赦ない暑さの到来を思うと覚悟のいる景色を眺めています。
皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
◇ ◇ ◇
最近は暑くなるのが早いですね。
また5月もそうでしたが、夏日と寒い日を1〜2日おきに繰り返すような乱高下もあって、着るものが薄過ぎたり暑過ぎたり、大変だなぁと思う事が多いのではないでしょうか。
今回は夏に向けての涼し〜い話題を…という思い付きで、涼感素材の代表 〈麻〉をテーマにお届けします。
私は和服の「かたち」をよく話題にしますが、基本的に和服は開口部が多くて夏に涼しい構造なので、今回は服の素材、「服をかたち作っているもの」について取り上げます。
〜愛おしき麻たち〜涼しく着るということ
麻の色々
私たちの暮らす日本では、昔から「麻」の名で呼ぶ植物素材を衣料などに用いて、多湿で暑い夏を上手いこと《ちょお〜ど・よく》過ごしてきました。
今でも麻・麻混素材の服はたくさん見かけますし、愛用されている方もおいでると思います。
タイトルに「麻たち」と書きましたが、日本語で「麻」と呼ぶ植物(素材)が複数あるのはご存知でしょうか?
植物の茎から採った繊維である点で共通しているのですが、少しずつ特徴の異なる色々な「麻」。
その辺りについて少し解説し、“涼しく着ること“について考えていきますね。
まずは現在の主流
現在、洋服の素材としてシンプルに「麻製ですよ」というと、まずそれは「リネン」でしょう。
リネン[linen]は和名で亜麻(あま)と言う植物で、古くからヨーロッパを中心に衣料やインテリア素材として使われてきました。
日本には自生していなく、フランスなどからの輸入品が流通しています。
質感としては、加工の種類も色々ありますがおおむね程よいザラザラ感があり、また布の状態だとトロみ感というか、しなやかに風に泳ぐようなたらりとした動きがあり、使い込むとくったりと馴染みます。
湿気を溜めず、乾くのも早いので夏には気持ちいいですよね。
また空気を含む構造の繊維なので保温性もあり、冬にも良いようです。
手芸店でも夏にかけてはリネンやリネン混の生地がたくさん並び、色柄ものも多いので様々な用途で楽しめるようになっています。
次に伝統の
次に挙げるのは、和服の世界でいう「麻」、それは「ラミー」です。
熱帯地方を中心にこちらも古くから世界中で使われてきた素材ですが、日本で伝統的に織られてきた麻布というと、今では新潟県の『越後上布』(越後縮とも)・沖縄県の『宮古上布』・そして石川県の『能登上布』などの産地があります。
「上布」と言う呼び名は、上等の布という意味でラミー及びヘンプ(ヘンプは後で紹介します)を細密に平織りした布を指し、昔から珍重され天皇への献上品や国に納める税(物品で納めていた時代の)としても流通したそうです。
ラミー[ramie]は和名を苧麻(ちょま/からむし)と言って、日本にも自生していた植物で昔は国産ラミーもあったくらい歴史のある素材です。
リネンと同じく通気性に富み、少しかための触り心地がジメジメと暑い季節にはベタつかずに快適です。
…ちなみに、私はラミー大好き人間です。
「〇〇上布」の新品を自分で買った事こそありませんが、頂きものやB反、ストールなどの小物や洋服地で入手し、現在は上着と襦袢などで数枚の愛用品があります。
ラミーは、とっても良いです…🎐
涼しく、軽く、丈夫で、そして光沢がある。
金箔やラメの様なピカピカ光る光沢ではなくて、ある角度で光が当たるとキラリと一瞬、艶を見せてくれる様なそういう上品な光沢があります。
縮(ちぢみ)やもみ洗い加工をしていないすべすべした平滑な種類の生地は特に、この光沢を楽しめます。
愛用品で一番古いものは5年以上着ていますが、年数が経って染め色がかなり落ちても、洗うとその艶がよみがえり本当にきれいだなぁと、干し上がった服を眺めてよく感動しています。
あとは、乾きが早くて清潔な点と合わせて、ホコリがあまり立たない点も気に入っています。
生地を買って仕立てたり、洗濯したときのすすぎ水の様子を見ていると毛羽立ち(=繊維の抜け落ち)が他の素材と比べて格段に少ない事や、周りのホコリが絡みにくいのが分かります。
「ホコリを吸わない」と私は言っているのですが、この点で呼吸器の弱い方でも安心して使う事の出来る素材ではないかと思います。
(※少しザラザラ感があるので肌に直接着るにはおすすめしません)
魅力を語ると終わらないのでこの位にしておきますが、薄く透けるその涼しげな見た目と上品な光沢、清潔さ、ほんとうに気持ちよく着られる特上の素材です。
これも注目
もう一つ、日本でなじみ深い「麻」といえば「ヘンプ」ですね。
衣料素材としてはラミーとリネンの方が主ではありますが、神宮大麻など神事にも使われてきた繊維素材という事ではヘンプ[hemp]の存在も大きいと思います。
和名では大麻(たいま/おおあさ)と言う植物で、戦後の大麻取締法により栽培は免許が必要となりました。
そのため国内での生産量はごく僅かで、ヨーロッパなどからの輸入原料を元に手芸用のヘンプ紐やバッグなどが販売されています。(衣料素材としてはヘンプは指定外繊維で、麻とは表記されません)
私は布としてヘンプを触ったり、着たりした事は今まで無く素材感はよく分からないのですが、古ーい下駄の鼻緒の芯にヘンプの糸束が使われているのを見た事があったり、他の使用例を見ると硬い繊維であるようです。
硬いと言うことは伸びにくく丈夫で、光沢もあり、ラミーと似た特長を持っているんですね。
ヘンプに関しては20代に農業研修生をしていた際、周りに国内栽培に注目している方がいたりして知るきっかけがあり、自分でも少し調べたりと興味のある素材ではあります。
農薬や肥料に頼らずに栽培が出来て、衣料用繊維だけでなく医療、食料の分野でも有用性が高く近年見直されてきているようです。
ヘンプ生地も少しずつ出てきたり、健康食品としてヘンプシードが販売されていたりするのを見かけます。
まだまだ一般的ではないにしても、ヘンプ生地を着るチャンスがあるかもしれないな〜と思うと、楽しみです。(体験はご報告します)
楽しみましょう
他にも「麻」はたくさんあって、10数種類にも及びます。
ジュート(黄麻こうま:ジュートバッグなど、袋や敷物などに使われている)など、衣料より生活用品や工業資材として使うものも含め、多彩なんですね。
また希少なラミー・ヘンプの生地も、コットンラミーやラミーリネン、コットンヘンプなど交織生地も作られており、質感や価格的にも使いやすい商品が増えてくると思います。
さらに着るものとしてだけでなく、インテリアに取り入れてもその魅力を楽しめますよね。
座布団などのカバー、カーテン、のれん、棚の目隠し、敷物などなど、個人的には麻のカーテンには憧れます。
純日本家屋なら障子を簾戸にしたり、麻のれんを掛けて涼をとったでしょうが、障子のない住まいではせめてカーテンを麻に…!と、思ったりしています。
涼しく着るということ
着るものを自作する以前は、夏物といえばせいぜいが薄手でさらっとした木綿シャツや、サッカー生地(夏によく出回るエンボスのある木綿地)やちょっとレースがかったワンピースなど、正直、冬でも着られなくはない程度の涼感の服しか着た経験がありませんでした。
そのうち安い木綿の生地から少しずつ着るものを作り始めて、ラミーに出会い、その快適さと美しさに烈しく感動し、ある意味人生が変わったような気がしています。
透けるレースや縦シボが心地良い綿しじらなど、木綿あるいは化繊生地でも涼しい素材はあるけれども、先にも書いたようにラミーにはパリッとした張りと軽さ、湿気を溜めない気質があり、個人的な好みにも合い抜群に快適なのです。
また、リアルにお目にかかる事は稀ですが雑誌の写真などでも見ると、上布の着物姿は本当に涼しげです。
こちらの体にも風が吹き渡ってきそうな、何なら体内で熱く燃え盛っていたものが、スッと平常に戻るような涼感です。
透けていて、でも肌の露出が冬物より多い訳ではなくきちんと「着ている」その絶妙のバランスが、見事だなぁと思います。
着ている本人はしっかりと重ね着をして帯を締めるので、実に涼しいかどうかは疑問ですが、はたから見ると「いいなぁ〜」と、うっとりするというか、実にいい物を見たという気持ちになります。
そう言った、見た目で涼しさを他人からもらうという経験から、他人の目に涼しく映ることの意味について考えるようになりました。
涼しく着ることで、周りにもその快適さ、涼しさが伝わるかもしれないという事です。
着物姿とまでは行かないけれども、上着一枚でもラミーを着ると「涼しそうだね〜」と言われる事は多く、生地にしても少々値が張るので気軽におすすめは出来ないのですが、その話題で盛り上がることしばしばです。
夏着物姿や、ラミーなど限定した素材に限らず 「夏には涼しげであること」 は、おおむね自分自身も涼しくて快適だし、そして周りの人にも涼感を配って歩けるというか、涼しさをお裾分けする、振りまいて過ごせる楽しい暮らし方なのではないかと思います。
最後に、生涯を和服で暮らした昭和期の作家 幸田文氏の「夏ごろも」という短い随筆から一部を引用したいと思います。
麻も物価高騰の影響を受けてはいますが、夏着物が贅沢なのは今に始まったことではありません。
夏その時しか着られないものをまとう楽しさと、心意気を感じる作品です。
“…よそいきの紗、絽、上布などは、すくほど薄くて軽くできている。だがこれを買うと、財布もうすく軽くなる。財布が軽くなると、ひとりでに涼しくなる人もあるし、かっかとのぼせる人もいる。いえ、ほんとに、涼しいような暑いような着物、といえるかもしれぬ。(中略)でも、たのしい着物だ。二枚の布が映りあうおもしろさは、夏ならこその味であり、多少の火の車の暑さは覚悟の上で、一度とすすめたい。”
引用:「幸田文 季節の手帖」(娘の青木玉氏編集の単行本シリーズ)/2010年平凡社 より『夏ごろも』初出1962年
以上、〜愛おしき麻たち〜涼しく着るということ でした。
* * *
おまけ
坂口おすすめサイト4選
麻生地や、麻きものを探してみたいなと思われた方はこちらのサイトを覗いてみられては?(広告ではありません)
「生地の森」 生地販売サイト
上質なリネンやコットン、少しラミーもありどれも魅力的です。ラミーリネン・ラミーローンは普段着に愛用しています。
「タケミクロス」 生地販売サイト
こちらも天日干し加工などで趣きのあるリネン・ラミー・ヘンプ生地がたくさんラインナップされています。
私自身はまだ購入した事はありませんが、狙ってます笑。
なお、今回の記事を書くにあたりこちらのサイトを参照させて頂きました。
「ナツメミヤビ」
金沢在住で活躍されている着物カラーアナリスト&着付け師さん のサイト(下記リンクはcreemaのページです。HP等も有り)。
カラーが選べるリネンの無地着物や長襦袢の誂え、半衿や帯揚げなどのオリジナル商品も多く販売されています。
イベントで一緒に出店させて頂いたりして拝見するに、リネン着物と襦袢はとっても快適だろうと思います。見るだけでも楽しいですよ!
長着を着ない暮らしで残念…とちょっと悔しくなります。
「山崎麻織物工房」 能登上布 唯一の織元
極上の贅沢。本麻(ラミー)の美しさを現代に伝え、磨きをかけている工房さんです。
ストールを愛用していますが、首に巻く前から気持ちの良い触り心地で、逸品です。
着物や帯の他にも絣の模様を楽しめるアクセサリーなど小物も色々あり、石川と都市部に取扱い店舗多数。
* * *
ミニコーナー・〈つつみ〉の 包んだ話・はお休みします。
次回にメインテーマとして少しまとめて制作工程を書きたいと思っています。
お楽しみに!
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開店日のお知らせ
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金沢市・新保屋での開店 ◻︎時間は10〜16時半です。
5月 26日(日)
6月 16日(日)
7月 6日(土)・28日(日)
7/6以外の日は下駄屋の素輪可さんも出店されます。
ご来店お待ちしております。
次回は6月26日(水)配信の予定です。
ではまた、お目にかかります。
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