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〈ちょうどいい 着る暮らし〉を創造する
坂口彩香の『ちょお〜ど・いい◎ 通信』 第4信 2024年4月24日配信
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(今回はエッセイ風でお届けします)
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白い半衿
先日、自分の普段着の繕いものをした。
気候がぐっと暖かくなって冬用の襦袢が暑くなってきたので、タンスから合い用(春秋用)を出したところ一枚に、ちょっとこれは手当てがいるな、という傷みがあったので、冬ものの整頓と一緒に半日をかけて繕うことになった。
裁縫の仕事場をもっているので適当な作業台と、針箱など道具は揃っていてすぐ始められる。使っている服の修繕は真っさらな仕立て物とは違って、洗濯したてでも作業場が汚れる恐れがあるから、台の上の敷ものや針、アイロンなどには少し注意する。今日やるのは襦袢の半衿の掛け替えと、首周りのすり切れの補修だった。
私の使っている襦袢はいわゆる半襦袢で、全身用でなく上着の丈、衿が固くて厚みのある襦袢衿である。土台の襦袢衿につけ外しが簡単な半衿を付けて、肌着の上にこれを着てから作務衣系の上着を着る。見えるのは衿と袖口だけなので身頃は温かさや丈夫さなど着心地と洗い勝手重視で、見える部位は取り替えが利く様になど、それなりの生地の組み合わせになっている。
ほぼ毎日使うので冬用、春秋およびピンチヒッターの合い用、夏用それぞれ3枚はある。冬ものは仕舞う前に半衿を新しいものにしておきたく、古びてきてはいるものの全体の修繕は去年くらいにしてあって問題なし、すぐ終わりそうだったので先に取りかかった。汚れた半衿を外して、新しい生地を衿に付ける形に折る。
季節の変わり目には、必ず行う作業である。1シーズンの途中でも、汚れがひどくなってきたら替えたりもする。使う半衿はいつも白である。自分で作った和服を着る様になって初めの頃は色柄ものも付けてみた事はあるが、使い分けるのが面倒だったし、白に不満足を思ったためしがないのでこれで統一することになった。目の詰まったオフホワイトの綿ブロードは触り心地もガサガサせず、見た目もきれいである。服地として売られているのを買い適当な巾に切って使う。
つけ外しが簡単な半衿を…と先に書いたが、簡単でも手間ではある。針を持つのがたまにしかなく、嫌いでもないのなら座る前から繕いの時間が楽しみだったりするかもしれない。けれども仕立の仕事をしていて自分のもの以外も色々手掛けていると、休憩の日や時間を繕いに使うのはちょっとキツイ時がある。散歩にも出たいし、やりたい家事もあるしでどれを優先するか、せめぎ合うことしばしばである。その辺りの事情でか、自分の服を新調するのも必要に迫られてギリギリのタイミングで作ることがほとんどだし、繕いも思い立ったら速やかに、とはいかないのが残念に思ったりもする。
トツトツと、端から半衿を縫い付けて表側が付いたら土台の衿をくるんで裏側も縫う。微細な事だけれども使う糸や付け方によって、仕上がりに良し悪しが出る。付け終えたすぐの仕上がりは大して差がなくても、洗濯すると糸が突っぱって衿全体がデコボコとシワだらけになったり、時間短縮を狙って布端の始末を省略してしまうとそこがぼろぼろとほつれてきて、着てしまえば隠れる所ではあるが、ハンガーに掛かっているときなどの見た目がちょっと粗雑になってしまったりするのだ。簡単でも奥は深い。枚数もありいつも使うものだから、なるべく気に障る点がないようにと毎回工夫してきて最近ようやく、最低限必要な手間というものが大分掴めてきた。手間と結果のバランスが取れてきた感じがある。
このように、自分のものでも、自分のものだからこそか、前回までのやり方を思い出し、踏襲するか変更するか、あーでもないこーでもないと、考えながら作業してしまうのである。その意味では集中力は仕事と同様に要る事になるから、始める前に、疲れてしまうのではとためらってしまうのである。
冬ものの半衿付けは終わり、あとはこれから使うものの修繕である。えり首の辺りの摩耗して穴が開いたところに裏から当て布をするが、小さいと当て布の際(輪郭部)からすぐにまたすり切れてくるので、肩全体を覆うくらい大きめに付ける。その後、刺し子風に適当につづる。年代物の木綿や紬といった着物を解くと出会う事がある、針目細かくきっちりと、表は補修されているように見えない位きれいで、裏から見ても糸の渡りが見事なつぎ当て…には遠く及ばないが、それでも十数分を息を鎮めてつづった。
畳み終えて同じ大きさ、形に積まれた襦袢は、私にとっては安らぎそのものである。仕事の仕立てものを畳み終えても達成感や安堵感はあってよく似ているが、この安らぎには清潔な印象がある。前後でお金があまり動かない個人的、家庭的な営みだからだろうか。今回は特に珍しく仕事に追われていた後の(ニワカ忙しかった)、ひと息ついたタイミングだったからなおさらに感じたが、理由はどうあれ、心を尽くす、意を尽くす繕いものの時間は、確かに気持ちが潤うのである。
〈つつみ〉の包んだ話 はお休みします。
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編集後記
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今回は何故か、随筆の文体で書いてみる事になりました。本文にもあるように少し前まで、ニワカ忙しかったというか仕事のことで慌ただしくしていて、ゆっくりと構想を練る時間がとれなかったのですが、そのうちふと構想がひらめいてきてこの様な形に仕上がりました。
裁縫が主に座り作業で、私の性分も地味ときては、裁縫の楽しさを賑やかしく表現できません。。
一人で座って黙々と進める作業は、静かで、緻密で、その静かさに耐えるある種の根性が要ります。その点で苦行だなと思うこともあります。
でもその中で、自分の手の内で服が姿を現してくるのが非常にダイナミックで、いつも感動してしまいます。
繕いものも同様で、「服の姿をととのえる」という見方をすれば、これもなかなかしみじみとした感動があり、面白いと思います。
楽しいというより、味わい深い。そんな世界観でいつも座っています。
皆さんは春の衣更えはもうお済みですか?
針を持つ方も持たない方も、ぜひ自分なりの「気持ちが潤う服の仕舞い方」で、春と、もうすぐにでもやってきそうな初夏を、スッキリと晴れやかにお過ごしくださいね。
次回は5月22日(水)配信の予定です。
どうぞお楽しみに!
ではまた、お目にかかります。
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ふく拵え たてや
主宰・和裁士/坂口 彩香
石川県能美市寺井町
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