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〈ちょうどいい 着る暮らし〉を創造する
坂口彩香の『ちょお〜ど・いい◎ 通信』 第6信
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・2024年6月26日配信・
こんにちは!たてやの坂口です。
「今のうちに暑さに慣れておきなさいよ」というお達しなのでしょうか…。
北陸は一旦夏日になってから、梅雨入りを迎えましたね。
エアコンと扇風機を駆使し、手や首から上に汗をかかないようにして仕事をしています。
皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
◇ ◇ ◇
さて今回は、たてやオリジナル商品 手縫い足袋〈つつみ〉について書きたいと思います。
第1〜3信にミニコーナとして連載していた『〈つつみ〉の包んだ話』の続編になります。
過去の通信はニュースレターホームから読むことができますので、最近ご登録された方もよかったら読んでみてください。【末尾のリンクからどうぞ】
とても嬉しい事に〈つつみ〉は販売開始以来ご好評を頂いていて、秋に3年目を迎えます。
通信を読んで下さっている方も(メールアドレスのみの登録なのではっきりとは分からないのですが、)お買上げ頂いた方のほうが多いのではないかと思いますので、今お使いの〈つつみ〉をより知って、日常に、又とっておきの日に楽しんで頂けたらと思います。
つつみを解(ほど)く
ミニコーナーの編で〈つつみ〉の履き方・生い立ち・制作の準備段階=水通し作業をご紹介してきて、続きは布から〈つつみ〉が出来上がるまでをご紹介しようかなと考えていたのですが、先日ふと思い立ちまして(笑)、逆の順で書いていくことにします。
つまり、皆さんのお手元にある〈つつみ〉を解いてみたとしたらこんなふうになっていますよ〜という流れで、〈つつみ〉という足袋をひらいて、中を覗いてみようという事です。
そして、作り方を知らずに解いてしまうと秩序の無いただのバラバラ事件になるだけですが、制作者が解くので、作る順番通りに後ろ(最終工程)のほうから解いてご案内していきますよ。
〈つつみ〉青緑色でご紹介。他カラーや白、ネル裏も同じ作りになっています。
※写真は実物の制作時に撮ったもので、本当に解いたものではありません。(解いたものを上手く撮る自信がなく汗)
①踵(かかと)の貫(かんぬき)
踵の部分は側生地(がわきじ)が重なっていて、コハゼを留める様になっていますよね。
重なり目の裾の方が過度に開いて裂けない様に、縫い留めてある箇所があります。(写真矢印)
市販品はこの辺りで円くステッチをかけてあるものが多い(尻どめと呼ぶそうです)のですが、〈つつみ〉は小さく貫を入れます。
表から縫うのはここだけなので、まずここをはずして裏に返します。
②底付け
裏に返すとこの様になっています。洗濯した後、干す時に裏返す方は見た事がありますね。
(表のままで干してかまいませんが、指先のゴミが取れるのと褪色防止になります)
底布と側生地を縫い合わせているのが分かると思います。
ぐるりと一周を返し縫いで縫い合わせ、その後、縫い代にほつれ止めのピンキングを施してあります。
縫い目を解くと、次の写真の様になります。
底布と縫い合わせる前には側生地のかたちが出来上がっているようですね。
次はこの側生地を裏返していきます。
③甲縫い
側生地を裏返すと、この様になっています。
アルファベットのJの様な縫い目が出てきました。
これが甲の縫い目で、外甲(そとこう:4本指を包む側生地)と内甲(うちこう:親指を包む側生地)、それぞれ表裏2枚の計4枚を縫い合わせています。
ここも底付けと同様返し縫いで、伸びる様に縫い代に細かく切り込みが入っています。(写真の下の縫い目は切込み前)
足袋の正面にある縫い目なので針目が目立ちやすく、かつ丈夫さも求められるところで、実は縫う工程の中で一番神経を使います。
試作時にたくさん試した中の一番きれいに仕上がる方向で縫っています。
ではここをそっと解いて(そっと解きたいのは私だけだと思いますが笑)、外甲と内甲に分けてみます。
甲縫を外した状態。片方ずつ見ていきましょう。
⑥外甲
外甲は大きい方の側生地で親指以外の4本指を包み、端にコハゼがついています。
表裏の間にコハゼを挟んで縫い合わせたあと、上辺とコハゼ下のタテ部を縫ってあります。
コハゼを単体でご覧になったことはありますか?
知らなくても足袋は履けますが、せっかくなのでご紹介しますね。
コハゼは平らで指の爪に似た形をしている様に見えますが、縫い付けのための穴がちゃんとあって、縫い代側(中に隠れる所)が幅に出っ張っていて、抜けにくい形になっています。
摩耗に強い太糸で縫い付けてあり、縫う時はどうするのかと言うと規格通りに並べてテープで仮止めをします。
〈つつみ〉は扱いやすい様にコハゼの間隔が市販品より少し広めです。
⑦内甲
内甲は小さい方の側生地で親指を包んでいて、内くるぶしの辺りにはコハゼを掛ける掛け糸が付いています。
掛け糸は裏面には出ていないので、表布に掛け糸を付けてから表裏を縫い合わせていることが分かります。
掛け糸は目打ちで下穴を開けてから通し、引っ張られた時に伸びない様に上下を縫い止めてあります。
ここには当て布を貼り、丈夫にしてあります。
一望すると
さて、外甲内甲それぞれを解いて部品も外したところで、もう一度底布と並べてみましょう。
底布は足の裏の輪郭に沿っていて納得しやすいかと思いますが、側生地は直線と曲線の組み合わさったとても複雑な形です。
最終的に3パーツを縫い合わせるので整合性も高くないといけませんし、線の一本一本の具合(角度や長さなど)で足袋のフィット感、美しさが変わります。
本当に、良く出来ているなと思います。
私は〈つつみ〉は作っていますがゼロからこの形を起こした訳ではないので、原始的な袋状の足袋からここまで精細に作り込んだ先人の集中力というか、美意識に本当に敬服してしまいます。
「先人」も、一人ではないでしょう。年月も1世代で経験できる長さではないでしょう。
その歴史の突端に私がいて、足袋を作っているんだなぁと、しみじみしてしまう時があります。
⑧裁断
真っ平らになった〈つつみ〉を眺めて、解くという試みはここで終わりです。が、オマケで裁断の工程をご紹介しますね。
側生地は1組分の長さで下準備をするのでタテに並べて、裁断をします。
4枚重ねの曲線裁断のため、小型のロータリーカッターを使用しています。
写真には写っていない大事なもの、そう、型紙ですね。
あまりに色々な記号やら線やら、印の訂正などがキタナイので割愛いたしました…。
〈つつみ〉は22.0〜27.0cmを5mm刻み×幅の広いレギュラー型と細型で22段階の規格の型紙で制作しています。
手芸材料として購入した型に手を加え、切出して使用しています。
足首を太くしたり甲高などの調整もそれぞれに型紙を作り、調整が多い場合はその方専用の型紙も起こします。
老舗の足袋専門店の、お客様の足を片方ずつ何十ヶ所も計測して作る厳密なオーダーメイドには及ばなくとも、程よい履き心地になる様に「立体造形」として日々研究しています。
簡単な調整なら料金もお安く、1組だけの制作でも調整できますので、ご注文の際にお気軽にご相談ください。
縫い糸
最後に、使用している糸について
普段使いと頻繁な洗濯を想定した〈つつみ〉の縫い糸は、すべて化繊糸を使用しています。
部位によって細糸と太糸を使い分け、どちらも手縫い用の糸です。
カード巻きだったり、ミシンにかけられない形のコマ巻きだったりするのが手縫い用の証。
製糸会社さんも本当に研究されているな…!と思うのですが、ミシン用と手縫い用では材質が同じポリエステルでも撚り方向や伸びなどの性質が少し違い、やはり手縫い糸は手縫いの製品に使われてこそ、そのパワーが良く発揮されます。
摩耗に強いのでほころびてくる事は少ないのではないかと思いますが、万が一、部分的にほころびた場合はお持ちでしたら化繊糸で修繕されると良いと思います。
※足袋は肌着のため寸法直しや修繕は基本的にお受けしておりません。ですがご来店が可能な方でしたら開店時にお持込み頂いたり、メール等で直し方のご相談をお受けする事が出来ます。
以上、–〈つつみ〉を解(ほど)く– でした。
皆さんのお手元の〈つつみ〉もこの様になっていますよ。
ちょっとした探検みたいでしたかね。
1回でまとめきれなかったので次回ももう少し続き、〈つつみ〉のちょお〜ど・いい◎ ところについてなどを書きたいと思います。
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たてやHP:手縫い足袋〈つつみ〉
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編集後記
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ふと思い立ちまして、解く(ほどく)という順番で〈つつみ〉の制作の様子を見て頂きました。
何かを分解するって、ちょっと面白いですよね。
出来上がりを目指して進めるモノづくりとは違う「秘密を覗きみる」ような、妙な好奇心が働くのが分解という遊びだなぁと思います。
遊びですが、私に言わせれば役に立っているとも言えます。
着物の身幅や裄など部分的な直しをする場合、外から状態を確認したらまず解く作業を行います。
縫い変えるところに手が届くように開き、それから縫い変えたいところを裏側から見て、直し方を決めて進めていきますが、開くと実に様々な仕立て方に遭遇します。
自分のやり方、知っているやり方以外の時にはびっくりする様な方法だったり、縫い目も手によって表情がそれぞれあるので、その針目を眺めたり、直しのお仕事は毎回この「解く」という作業が興味深く勉強になるのです。
あまり長い時間はかけなくとも、「この畳み方はどうなっているんだろう?」とか「ここをこの方向から縫って、メリットはあるのか?(なぜこの方向なのだろうか?)」と言ったことを観察しながら考えます。
考えても分からない事もありますが、想像してみた理由や手順が「なるほどね〜」「この畳み方はこういうメリットがあるね〜」などと腑に落ちる事もあり、習ってきたやり方とは別の考え方を知る事ができます。
こうして、ある程度考察すると自分でもその方法を使うことができるようになって、持ち技が増えるんですよね。(練習や検証実験をすることもあります)
特に私は絹のやわらかい着物から木綿・麻類、長着に足袋に作務衣類(和装服)と色々な種類、色々な要望の仕立てをお受けしているので、生地や用途に応じて柔軟に技法を選んでいます。
学校や先生に就いて習う学びで基礎を身に付けたら、その後にはこういった「世にある着物全部が、私の教科書」の様な学び方もいいのではないかと思います。
名付けて、『裁縫解剖学』。(笑)
基礎知識を持った上でのこういった探検は、新たな工夫や優れたデザインの種であると思っています。
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お知らせ
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金沢市・新保屋での開店
7月 6日(土) ※時間は9時半〜15時半
28日(日)
8月 10(土)
18(日)
9月 1日(日)
時間は6日以外は10〜16時半の予定ですが、状況により早め開店・早め閉店になる可能性があります。
変更が決まり次第HPのトップページ下方のスケジュールを更新しますので、ご確認頂くかメール等でお問い合わせください。
7/28、8/18は下駄屋の素輪可さんも出店されます。
ご来店お待ちしております。
次回は7月24日(水)配信の予定です。
どうぞお楽しみに!
ではまた、お目にかかります。
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ふく拵え たてや
主宰・和裁士/坂口 彩香
石川県能美市寺井町
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